うつ病・自閉症と腸内細菌叢 cf:腸内細菌学雑誌 / 32 巻 (2018) 1 号

本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。

功刀 浩

著者情報
  • 功刀 浩

    国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部

 
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  • 発行日: 2018 年 受付日: 2017/09/11J-STAGE公開日: 2018/01/29 受理日: 2017/10/29[早期公開] 公開日: - 改訂日: -

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/32/1/32_7/_pdf/-char/ja

要旨

うつ病は慢性ストレスを誘因として発症することが多いが,腸内細菌叢とストレス応答との間に双方向性の関連が示唆されている。

動物実験によりプロバイオティクスがストレスに誘起されたうつ病様行動やそれに伴う脳内変化を緩和することが示唆されている。

うつ病患者における腸内細菌に関するエビデンスはいまだに乏しいが,筆者らはうつ病患者においてLactobacillusやBifidobacteriumが減少している者が多いことを示唆する所見を得た。

最近,プロバイオティクスがうつ病に有効であるという臨床試験の結果も報告されるようになった。自閉症スペクトラム障害においては,消化器症状を示す者が多いことが知られ,重症度とも相関することから,古くから腸内環境の関与が検討されている。

患者の腸内細菌叢に関する検討では,ClostridiumやSutterellaなどいくつかの菌の変化が指摘されているが,結果は必ずしも一致していない。プロバイオティクスや便の細菌移植などの治療法が探られており,ASDの有効な治療法は殆どないことから,今後の発展が期待される。 

 



はじめに

腸内細菌と脳機能や精神疾患との関連についても研究が進み,ストレス応答や精神疾患の病因において重要な役割を果たしていることを示すエビデンスも蓄積され,「脳腸相関brain-gutinteraction」や「腸内細菌叢-腸-脳・軸microbiota–gut–brain(MGB)axis」に関する研究分野がトピックスとなっている(1–6).。

うつ病と腸内細菌

乳酸菌飲料,ヨーグルトなどの摂取頻度と腸内細菌の関係を調べたところ,大うつ病性障害患者の中で週に1回未満の摂取頻度の人は,週1回以上摂取習慣がある人と比較して腸内のBifidobacteriumの菌数が有意に低いという結果を得た。

したがって,プロバイオティクスを含む食品を摂取する習慣がBifidobacteriumの菌数に影響を与える可能性が支持された。

 ヒトを対象としたプロバイオティクス摂取に関する検討

うつ病がLactobacillusBifidobacteriumの低下と関連しており,これらの菌で構成されるプロバイオティクスの摂取がうつ病の治療に有効であることが示唆されるが,いまだに検討が少ないことから,さらにエビデンスを蓄積していく必要がある。

想定されるメカニズム

BifidobacteriumLactobacillusなどの腸内細菌叢の変化は腸の透過性を左右し,腸内細菌叢の乱れによって腸の透過性が亢進して「漏れる腸(leakygut)」となり,これらのプロバイオティクスの投与によって透過性が回復することが報告されている。

自閉症スペクトラム障害と胃腸症状

ASDは神経発達障害の代表的なものの1つで,コミュニケーションや社会性の障害と反復/常同行動を特徴とし,8歳時の有病率は1,000人に14.6人という数字が報告されている(33)。

女児に比べて男児の方が4~5倍頻度が高い.病因は不明であるが,遺伝子異常(染色体の微小なコピー数異常など),毒素への暴露,免疫学的異常のほか,腸内細菌叢の異常などが関与すると考えられている。

自閉症スペクトラム障害と腸内細菌叢

子供の腸内細菌叢は,胎生期における母親の食事,抗生物質の使用,分娩様式(自然分娩か帝王切開か),出生後には,母乳栄養か否か,抗生物質の使用,食事の内容などによって変化する。

自閉症における腸内細菌を標的にした治療

18人の胃腸症状のあるASD児に対して,2週間の抗生物質による腸内浄化ののちに,便の腸内細菌移植を行ったところ,80%の消化器症状が消失し,自閉症の行動異常も改善し,それらの効果は8週間後の追跡調査時にも続いていた。
 

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