食用油を介した「食事-腸内細菌-宿主」ネットワークによる免疫制御 cf:腸内細菌学雑誌 / 32 巻 (2018) 4 号

本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。

雑賀 あずさ國澤 純

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  • 発行日: 2018 年 受付日: 2018/05/21J-STAGE公開日: 2018/10/31 受理日: 2018/07/13[早期公開] 公開日: - 改訂日: 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/32/4/32_167/_pdf/-char/ja

 

要旨

腸管には数100兆個もの細菌が生息している.これら腸内細菌の影響を最も受けると考えられる腸管には,生体内で最大の免疫システムが備えられており,腸内細菌との相互作用を含めた複雑系を形成しながら恒常性を維持している。

近年の分析技術の進歩により,消化器疾患や循環器疾患など様々な疾患に腸内細菌叢の変動が関わっていることが明らかになってきた。

加えて,食事や栄養を介した免疫制御についてもメカニズムが解明されつつある.さらには食事成分の一部は腸内細菌による代謝を受けることから,腸内細菌による食事成分の代謝物が宿主免疫系に与える影響も同時に考える必要がある。

すなわち,今後は「食事-腸内細菌-宿主」を結ぶ複雑なネットワークを明らかにすることが重要であると考えられる。

そこで本総説では,食事成分を由来とする代謝産物のなかでも特に脂質に注目し,腸内細菌を介した脂肪酸代謝と免疫制御について紹介する。


1
.はじめに

腸管は食物の消化や吸収を行う臓器であるのと同時に,生体内の免疫細胞のうちの半分以上が集積する体内最大の免疫臓器でもある.。
腸管組織は,細菌やウイルスといった病原微生物,さらには食事成分や共生微生物を含む多様な外来異物に常に晒されている。
そのため腸管で作動する免疫システム(腸管免疫システム)は,有害な異物である病原微生物に対しては活性型の免疫応答を示し排除する一方で,食物や腸内細菌など生体にとって有益な異物に対しては免疫寛容として知られる不応答を誘導し,生体での利用を可能としている。

2.食用油脂肪酸構成

我々は日常生活において植物性食用油を頻用している.代表的な食用油としてサラダオイル(主に大豆油と菜種油を混合したもの)やオリーブ油が知られているが,そのほかにもココナッツ油やごま油,亜麻仁油など,多様な食用油が販売されている。
これら食用油を構成する脂肪酸組成は,食用油の種類によって大きく異なる(図1)(
20)。
例えば,サラダオイルによく使用される大豆油には不飽和脂肪酸であるリノール酸が約50%含まれているのに対し,亜麻仁油やエゴマ油にはaリノレン酸が多く含まれている.そのほかココナッツ油は炭素数12以下の中鎖脂肪酸を多く含む.

33 脂肪酸から代謝・産生される抗アレルギー・ 抗炎症性脂質メディエーター

食事から摂取した脂肪酸の多くは生体内で代謝される。例えばw6脂肪酸リノール酸はアラキドン酸へと,w3脂肪酸のaリノレン酸はエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)へと代謝される。

4.食用油に含まれる脂肪酸による免疫制御

4-1.亜麻仁油による食物アレルギー抑制効果

食事由来の脂質がw3脂肪酸やw6脂肪酸の生体内における存在量に影響を及ぼすことや,これら脂肪酸代謝物が強い生理活性を有することが明らかになってきた。

4-2.EPA 代謝産物(17,18-EpETE)による抗炎症作用

亜麻仁油で飼育したマウスではEPA代謝産物が増加しており,特にEPAがCYPにより酸化されエポキシ体となった17,18-epoxy-eicosatetraenoicacid(17,18-EpETE)が顕著に増加していた(図3A)(21)。

4-3.17,18-EpETE による接触皮膚炎抑制作用

17,18-EpETE は腸管アレルギーだけでなく,皮膚炎も抑制することを見出している。

5.微生物による脂肪酸代謝

腸内細菌や発酵食品などに含まれる微生物も脂肪酸代謝に関わる酵素を同様に発現し,脂肪酸代謝していることが分かってきた。

6.食用油による腸内細菌叢の制御

腸内細菌の多様性の減少や偏った菌種の異常な増加による腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)は,腸管免疫を起点とする恒常性維持システムに異常を起こし,疾患の原因となる.偏った食事や栄養はdysbiosisの1つの要因であり,腸内細菌叢の変化を介して宿主の健康状態に影響を及ぼしている。

7.おわりに

様々な分析技術が発達したことにより,腸内細菌が生体内で産生する食事由来の脂肪酸代謝物が宿主免疫システムやエネルギー代謝に影響を与えていることが明らかになってきた。

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以下、全文

特集:腸内菌叢はコントロールできるか?
食用油を介した「食事-腸内細菌-宿主」ネットワークによる免疫制御
雑賀あずさ 1,2,國澤 純 1*-5
1*国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト & 腸内環境システムプロジェクト, 2 大阪大学大学院薬学研究科 ワクチン材料学分野,
3 東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター,
4 大阪大学大学院医学系研究科・歯学研究科,
5 神戸大学大学院医学研究科
Immune Regulation by a “Diets-Intestinal Bacteria-Host” Network through Dietary Oils Azusa SAIKA1, 2, Jun KUNISAWA1*–5
1*Laboratory of Vaccine Materials and Laboratory of Gut Environmental System, National Institutes
of Biomedical Innovation, Health and Nutrition (NIBIOHN),
2Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University,
3International Research and Development Center for Mucosal Vaccines, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo,
4Graduate School of Medicine, Graduate School of Dentistry, Osaka University,
5Graduate School of Medicine, Kobe University

 

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