腸内細菌叢と肥満症 cf:日本内科学会雑誌 / 104 巻 (2015) 4 号

本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。

 

入江 潤一郎伊藤 裕

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  • 発行日: 2015/04/10 受付日: -J-STAGE公開日: 2016/04/10 受理日: -[早期公開] 公開日: - 改訂日: -

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/4/104_703/_pdf/-char/ja

 

要旨

腸内細菌は食事からのエネルギー回収の促進,体脂肪蓄積を助長する腸管ホルモン産生,エンドトキシンによるインスリン抵抗性の惹起などを介して肥満症の病態形成に寄与する。

肥満患者では腸内細菌叢の偏倚が認められ,その腸内細菌が形成する腸内環境が減量に対する抵抗性の一因となっている。

腸内細菌叢の偏倚の解消を目指した腸内環境の整備が,新たな肥満症の治療となることが期待される 

 

はじめに―腸内細菌の宿主の代謝への影響―

近年,腸内細菌が宿主の代謝異常症の病態,特に肥満や糖尿病の病態形成に影響を与えることに注目が集まっている。

ヒトの腸内には重量にして1kg,100兆個に及ぶ腸内細菌が共生しているとされており,宿主固有の細菌叢(フローラ)を有している。

1.腸内細菌が肥満の病態に影響をする機序

個体の生存に腸内細菌を含めた微生物の共存が必須ではないことは,1940年代に無菌動物が作成され,継代が可能であったことから明らかとなった。

1)肥満症と慢性炎症

ヒトの肥満およびメタボリックシンドロームにおけるMetabolicendotoxemiaの存在も検討されており,高脂肪食の摂取後は健常者でも血中エンドトキシン濃度が高値であること,また食事摂取エネルギー量と血中LPS濃度の間に相関がみられることが明らかとされている。

これらの所見から,腸内細菌はエンドトキシンを介してヒトにおいても肥満症の病態に寄与していると考えられる。

2)肥満症とエネルギー回収

植物細胞壁の主成分であるセルロースなどの繊維性多糖を分解する酵素を哺乳類は保有しないため,腸内細菌がこれらを発酵分解することでエネルギーとして利用可能となる。

この経路により得られるエネルギーは欧米人では1日140~180kcalに及ぶとされている。4)

3)肥満症とエネルギー分配

腸内細菌によって発酵産生された短鎖脂肪酸はエネルギー源としてのみならず,シグナル分子としても機能し,エネルギー分配にも関与する。GPR43(FFAR2)は主に酢酸,プロピオン酸をリガンドとするGPCRであるが,GPR43は白色脂肪組織に多く発現が認められる。

2.肥満個体の腸内細菌叢の特徴

ヒトやマウスの腸内細菌叢は,ファーミキューティス門,バクテロイデテス門,アクチノバクテリア門,プロテオバクテリア門の4門に属する細菌でほとんどが占められる。

個人の腸内細菌叢は幼児期以降に個人特有の一定の組成を示すようになるとされ,それは遺伝要因,食習慣を含めた環境要因双方により規定されるが個人差が大きい。

3.腸内細菌を介した肥満症治療の可能性

腸内細菌叢を変化させるべく,非肥満健常者の腸内細菌を,直接メタボリックシンドロームを有する肥満者に十二指腸チューブを用いて移植するランダム化試験が行われ,非肥満者の腸内細菌を移植された被験者では,酪酸を産生する腸内細菌の増加を認め,インスリン感受性の改善が認められた。11)

おわりに―肥満症の改善はなぜ難しいのか?―

腸内細菌叢を標的とした治療法は可能であろうか?
これまで述べたように,個人の腸内細菌叢に劇的な変化をもたらすことは,消化管バイパス術のように宿主側の要因を大きく変える必要があり,容易ではない。
しかし便移植術においては,投与した細菌がレシピエントの腸内細菌組成を大きくは変化をさせなくとも,腸内環境を改善し得ることが示されており,撹乱された腸内環境の正常化の契機を,腸内細菌を標的とした治療で与えることは可能と考えられる。

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