腸内細菌叢とdysbiosis cf:日本静脈経腸栄養学会雑誌 / 33 巻 (2018) 5 号

本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。

 
馬場 重樹佐々木 雅也安藤 朗 
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  • 発行日: 2018 年 受付日: -公開日: 2018/12/20 受理日: -[早期公開] 公開日: - 改訂日: -
 

 はじめに
日本人の腸内細菌叢のプロファイルはアメリカ、デンマーク、スペイン、フランス、スウェーデン、オーストリア、ロシア、ペルー、マラウイ、ベネズエラ、中国の健常人腸内細菌叢と比較し1ビフィズス菌やブラウチアなどが優勢で、古細菌が少ない、2炭水化物やアミノ酸代謝の機能が豊富である一方で、細胞運動性や複製・修復機能が少ない、3他の国では主にメタン生成に消費される水素が日本人では主に酢酸生成に消費される、4海苔やワカメ(の多糖類)を分解する酵素遺伝子が、約90%の日本人が保有されるのに対し他の国では多くても15%程度であるなど日本人の腸内細菌叢には生体に有益な機能が外国よりも多く含まれていることが明らかとなっている。

ヒトの腸内細菌叢

ヒトの消化管には約1,000種、100兆個の細菌が存在し、腸内細菌の持つ総遺伝子数はヒトの持つ遺伝子の100倍以上にのぼる19)20)

腸内細菌は無秩序に存在しているのでは無く、各々がテリトリーを保ちながら全体として集団を形成している。この集団のことを腸内細菌叢(叢=草むら)あるいは腸内フローラ(フローラ=お花畑)と呼ぶ21)

ヒトの腸内細菌叢の働き

腸内細菌が発酵により産生する酪酸は腸の過剰な免疫を抑制し、良好な腸内環境を維持するのに役立っていると考えられる。このように腸内細菌叢は宿主の栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達において中心的な役割を果たしている。

腸内細菌叢の異常(dysbiosis)と環境要因

欧米タイプの食事には人工甘味料や乳化剤、食品添加物、増粘剤、防腐剤、着色料などの食品添加物が含まれている。これらの中にも炎症性腸疾患やdysbiosisとの関連が示唆されているものがあるが70)-76)、いずれも培養細胞や疾患モデル動物をもちいた実験が中心である。一般的に、人工甘味料や乳化剤などの食品添加物は膜透過性を上昇させ、消化管内のlipopolysaccharide(sLPS)などの有害物質の体内への進入を助長するとともに、消化管粘膜のバリア機構である粘液層を変化させることなどを介してdysbiosisを惹き起こしていると考えられる。この他にも、大気汚染であるスモッグやPM2.5といった物質と炎症性腸疾患やdysbiosisとの関連も報告されている77)-80)

おわりに

腸内細菌叢の構成は宿主側の遺伝子素因や免疫反応の影響を受けるため、莫大なデータを元に多因子的な解析が必要となってくる。今後更なる研究が待たれる。

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