消化管の免疫機能からのアプローチ―Th17細胞を中心としたCrohn病の病態について― 日本内科学会雑誌 / 100 巻 (2011) 1 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
2011 年 100 巻 1 号 p. 133-138
- 発行日: 2011 年 受付日: -J-STAGE公開日: 2013/04/10 受理日: -[早期公開] 公開日: - 改訂日: -
Crohn病は,遺伝的素因を関連した免疫応答が食事抗原や腸内細菌に対して過剰に反応して発症すると考えられている。
ここでは,小腸疾患の中でもCrohn病における免疫異常,特にTh17細胞を中心とした免疫応答について解説する。
腸内細菌叢とdysbiosis cf:日本静脈経腸栄養学会雑誌 / 33 巻 (2018) 5 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
はじめに
日本人の腸内細菌叢のプロファイルはアメリカ、デンマーク、スペイン、フランス、スウェーデン、オーストリア、ロシア、ペルー、マラウイ、ベネズエラ、中国の健常人腸内細菌叢と比較し1ビフィズス菌やブラウチアなどが優勢で、古細菌が少ない、2炭水化物やアミノ酸代謝の機能が豊富である一方で、細胞運動性や複製・修復機能が少ない、3他の国では主にメタン生成に消費される水素が日本人では主に酢酸生成に消費される、4海苔やワカメ(の多糖類)を分解する酵素遺伝子が、約90%の日本人が保有されるのに対し他の国では多くても15%程度であるなど日本人の腸内細菌叢には生体に有益な機能が外国よりも多く含まれていることが明らかとなっている。
ヒトの腸内細菌叢
ヒトの消化管には約1,000種、100兆個の細菌が存在し、腸内細菌の持つ総遺伝子数はヒトの持つ遺伝子の100倍以上にのぼる19)20)。
腸内細菌は無秩序に存在しているのでは無く、各々がテリトリーを保ちながら全体として集団を形成している。この集団のことを腸内細菌叢(叢=草むら)あるいは腸内フローラ(フローラ=お花畑)と呼ぶ21)。
ヒトの腸内細菌叢の働き
腸内細菌叢の異常(dysbiosis)と環境要因
欧米タイプの食事には人工甘味料や乳化剤、食品添加物、増粘剤、防腐剤、着色料などの食品添加物が含まれている。これらの中にも炎症性腸疾患やdysbiosisとの関連が示唆されているものがあるが70)-76)、いずれも培養細胞や疾患モデル動物をもちいた実験が中心である。一般的に、人工甘味料や乳化剤などの食品添加物は膜透過性を上昇させ、消化管内のlipopolysaccharide(sLPS)などの有害物質の体内への進入を助長するとともに、消化管粘膜のバリア機構である粘液層を変化させることなどを介してdysbiosisを惹き起こしていると考えられる。この他にも、大気汚染であるスモッグやPM2.5といった物質と炎症性腸疾患やdysbiosisとの関連も報告されている77)-80)。
おわりに
腸内細菌叢の構成は宿主側の遺伝子素因や免疫反応の影響を受けるため、莫大なデータを元に多因子的な解析が必要となってくる。今後更なる研究が待たれる。
ヒト腸内細菌叢のダイナミズムとダイバーシティー cf:日本乳酸菌学会誌 / 28 巻 (2017) 2 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
- 発行日: 2017/06/26 受付日: -J-STAGE公開日: 2018/08/31 受理日: -[早期公開] 公開日: - 改訂日: -
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslab/28/2/28_74/_pdf/-char/ja
従来、ヒトの腸管は無菌状態で出生すると考えられていたが、今日では、胎便からも細菌が検出されたとする報告もあり、腸内への細菌の定着は胎児期に始まるという説がある8-9)。しかし、本格的な腸内細菌叢の形成は、出産を契機に始まる。最近、従来無菌であるとされていた母乳についても、低菌数であるが細菌が含まれており、母乳が乳児の腸管への細菌の供給源の一つであると考えられるようになった10-13)。しかし、実際に新生児糞便から検出される細菌の多くは、このような母子間の垂直伝播によるものよりむしろ環境菌が多く、外環境から偶然取り込まれる細菌が初期にはメインで増殖するようである。
2-2.乳幼児の腸内細菌叢形成と健康との関係
乳幼児期の腸内細菌叢と健康との関係としてよく研究されているものとして食物アレルギーや喘息等のアレルギー疾患がある。IgE依存型反応(即時型アレルギー反応)と非IgE依存型反応(遅延型アレルギー反応)が存在する食物アレルギーは乳幼児の8%、成人でも5%が罹患する重大な疾患である24)。乳幼児期においては食物アレルギー発症の原因となる食物特異的なIgE抗体を作り易い一方で、このアレルギー反応を抑制する機能である消化管粘膜によるバリア機能や経口免疫寛容の働きが弱く、消化酵素,分泌型IgAの生産が少ない。
離乳期を過ぎて、成人同様の食を摂取するようになるとビフィズスフローラの面影は失われていき、成人型細菌叢が完成していく。図1には、典型的なビフィズスフローラの6名の離乳前後の細菌叢データと6名の成人の細菌叢データを並べて示している。この図から一目瞭然で、離乳後の赤ちゃんの腸内細菌叢は一人前の成人型の腸内細菌叢と言えよう。図2の多様度からも離乳後のOTU保有数が成人と肩を並べているのが分かる。
3-2.アジア人のエンテロタイプ
アジアには様々な民族が暮らしており、それに伴い、地域によって多様な文化や食習慣が根付いている。これらの食文化が腸内細菌叢に及ぼす影響を明らかにすることは、腸内細菌叢と食、さらには腸内細菌叢と健康との関係を解明する上で大きな手掛かりになると考えられる。
3-3.過渡期にあるアジア人の腸内細菌叢
Leyte島だけでなく、今、アジアのいたる地域で食の現代化が進んでいる。それがエンテロタイプという、大きな細菌叢コミュニティーを完全に変化させていることは衝撃である。そのような食の現代化がエンテロタイプのシフトを介して、宿主の健康や疾病にどのような影響を与えているのか、次なるAMPにおける重要課題として取り組んでいく予定である。
4.おわりに
ヒトが進化の中で、狩猟や農耕そして現代では工業生産により供給される食栄養を腸管に送り込み、それらを栄養源とする微生物を宿すという過程を通じて、最終的に複数の安定した細菌叢を宿しているという事実を目の当たりにすると、様々なことを考えさせられる。
中でも、安定した細菌叢はどのような原理のもとにどのような過程を通して形成されるのか、そしてそれらが宿主の健康に与える影響はどのように異なってくるのか、腸内細菌叢研究の命題とも言えるこの問題を考察する上でエンテロタイプは重要なポイントであると思われる。
食用油を介した「食事-腸内細菌-宿主」ネットワークによる免疫制御 cf:腸内細菌学雑誌 / 32 巻 (2018) 4 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
- 雑賀 あずさ
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクト
大阪大学大学院薬学研究科 ワクチン材料学分野 - 國澤 純
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクト
大阪大学大学院薬学研究科 ワクチン材料学分野
東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター
大阪大学大学院医学系研究科・歯学研究科
神戸大学大学院医学研究科
- 発行日: 2018 年 受付日: 2018/05/21J-STAGE公開日: 2018/10/31 受理日: 2018/07/13[早期公開] 公開日: - 改訂日:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/32/4/32_167/_pdf/-char/ja
要旨
腸管には数100兆個もの細菌が生息している.これら腸内細菌の影響を最も受けると考えられる腸管には,生体内で最大の免疫システムが備えられており,腸内細菌との相互作用を含めた複雑系を形成しながら恒常性を維持している。
近年の分析技術の進歩により,消化器疾患や循環器疾患など様々な疾患に腸内細菌叢の変動が関わっていることが明らかになってきた。
加えて,食事や栄養を介した免疫制御についてもメカニズムが解明されつつある.さらには食事成分の一部は腸内細菌による代謝を受けることから,腸内細菌による食事成分の代謝物が宿主免疫系に与える影響も同時に考える必要がある。
すなわち,今後は「食事-腸内細菌-宿主」を結ぶ複雑なネットワークを明らかにすることが重要であると考えられる。
そこで本総説では,食事成分を由来とする代謝産物のなかでも特に脂質に注目し,腸内細菌を介した脂肪酸代謝と免疫制御について紹介する。
1.はじめに
腸管は食物の消化や吸収を行う臓器であるのと同時に,生体内の免疫細胞のうちの半分以上が集積する体内最大の免疫臓器でもある.。
腸管組織は,細菌やウイルスといった病原微生物,さらには食事成分や共生微生物を含む多様な外来異物に常に晒されている。
そのため腸管で作動する免疫システム(腸管免疫システム)は,有害な異物である病原微生物に対しては活性型の免疫応答を示し排除する一方で,食物や腸内細菌など生体にとって有益な異物に対しては免疫寛容として知られる不応答を誘導し,生体での利用を可能としている。
4-3.17,18-EpETE による接触皮膚炎抑制作用
17,18-EpETE は腸管アレルギーだけでなく,皮膚炎も抑制することを見出している。
6.食用油による腸内細菌叢の制御
腸内細菌の多様性の減少や偏った菌種の異常な増加による腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)は,腸管免疫を起点とする恒常性維持システムに異常を起こし,疾患の原因となる.偏った食事や栄養はdysbiosisの1つの要因であり,腸内細菌叢の変化を介して宿主の健康状態に影響を及ぼしている。
以下、全文
特集:腸内菌叢はコントロールできるか?
食用油を介した「食事-腸内細菌-宿主」ネットワークによる免疫制御
雑賀あずさ 1,2,國澤 純 1*-5
1*国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト & 腸内環境システムプロジェクト, 2 大阪大学大学院薬学研究科 ワクチン材料学分野,
3 東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター,
4 大阪大学大学院医学系研究科・歯学研究科,
5 神戸大学大学院医学研究科
Immune Regulation by a “Diets-Intestinal Bacteria-Host” Network through Dietary Oils Azusa SAIKA1, 2, Jun KUNISAWA1*–5
1*Laboratory of Vaccine Materials and Laboratory of Gut Environmental System, National Institutes
of Biomedical Innovation, Health and Nutrition (NIBIOHN),
2Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University,
3International Research and Development Center for Mucosal Vaccines, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo,
4Graduate School of Medicine, Graduate School of Dentistry, Osaka University,
5Graduate School of Medicine, Kobe University
うつ病・自閉症と腸内細菌叢 cf:腸内細菌学雑誌 / 32 巻 (2018) 1 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
- 功刀 浩
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部
- 発行日: 2018 年 受付日: 2017/09/11J-STAGE公開日: 2018/01/29 受理日: 2017/10/29[早期公開] 公開日: - 改訂日: -
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/32/1/32_7/_pdf/-char/ja
要旨
うつ病は慢性ストレスを誘因として発症することが多いが,腸内細菌叢とストレス応答との間に双方向性の関連が示唆されている。
動物実験によりプロバイオティクスがストレスに誘起されたうつ病様行動やそれに伴う脳内変化を緩和することが示唆されている。
うつ病患者における腸内細菌に関するエビデンスはいまだに乏しいが,筆者らはうつ病患者においてLactobacillusやBifidobacteriumが減少している者が多いことを示唆する所見を得た。
最近,プロバイオティクスがうつ病に有効であるという臨床試験の結果も報告されるようになった。自閉症スペクトラム障害においては,消化器症状を示す者が多いことが知られ,重症度とも相関することから,古くから腸内環境の関与が検討されている。
患者の腸内細菌叢に関する検討では,ClostridiumやSutterellaなどいくつかの菌の変化が指摘されているが,結果は必ずしも一致していない。プロバイオティクスや便の細菌移植などの治療法が探られており,ASDの有効な治療法は殆どないことから,今後の発展が期待される。
はじめに
腸内細菌叢と肥満症 cf:日本内科学会雑誌 / 104 巻 (2015) 4 号
本記事は、腸内細菌叢(腸内フローラ)に関連する”日本内科学会”の発表記事を皆様にお伝えするために書いてます。
- 発行日: 2015/04/10 受付日: -J-STAGE公開日: 2016/04/10 受理日: -[早期公開] 公開日: - 改訂日: -
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/4/104_703/_pdf/-char/ja
要旨
腸内細菌は食事からのエネルギー回収の促進,体脂肪蓄積を助長する腸管ホルモン産生,エンドトキシンによるインスリン抵抗性の惹起などを介して肥満症の病態形成に寄与する。
肥満患者では腸内細菌叢の偏倚が認められ,その腸内細菌が形成する腸内環境が減量に対する抵抗性の一因となっている。
腸内細菌叢の偏倚の解消を目指した腸内環境の整備が,新たな肥満症の治療となることが期待される
はじめに―腸内細菌の宿主の代謝への影響―
近年,腸内細菌が宿主の代謝異常症の病態,特に肥満や糖尿病の病態形成に影響を与えることに注目が集まっている。
ヒトの腸内には重量にして1kg,100兆個に及ぶ腸内細菌が共生しているとされており,宿主固有の細菌叢(フローラ)を有している。
1.腸内細菌が肥満の病態に影響をする機序
個体の生存に腸内細菌を含めた微生物の共存が必須ではないことは,1940年代に無菌動物が作成され,継代が可能であったことから明らかとなった。
1)肥満症と慢性炎症
ヒトの肥満およびメタボリックシンドロームにおけるMetabolicendotoxemiaの存在も検討されており,高脂肪食の摂取後は健常者でも血中エンドトキシン濃度が高値であること,また食事摂取エネルギー量と血中LPS濃度の間に相関がみられることが明らかとされている。
これらの所見から,腸内細菌はエンドトキシンを介してヒトにおいても肥満症の病態に寄与していると考えられる。
2)肥満症とエネルギー回収
3)肥満症とエネルギー分配
腸内細菌によって発酵産生された短鎖脂肪酸はエネルギー源としてのみならず,シグナル分子としても機能し,エネルギー分配にも関与する。GPR43(FFAR2)は主に酢酸,プロピオン酸をリガンドとするGPCRであるが,GPR43は白色脂肪組織に多く発現が認められる。
2.肥満個体の腸内細菌叢の特徴
ヒトやマウスの腸内細菌叢は,ファーミキューティス門,バクテロイデテス門,アクチノバクテリア門,プロテオバクテリア門の4門に属する細菌でほとんどが占められる。
個人の腸内細菌叢は幼児期以降に個人特有の一定の組成を示すようになるとされ,それは遺伝要因,食習慣を含めた環境要因双方により規定されるが個人差が大きい。
3.腸内細菌を介した肥満症治療の可能性
おわりに―肥満症の改善はなぜ難しいのか?―
腸内細菌叢を標的とした治療法は可能であろうか?
これまで述べたように,個人の腸内細菌叢に劇的な変化をもたらすことは,消化管バイパス術のように宿主側の要因を大きく変える必要があり,容易ではない。
しかし便移植術においては,投与した細菌がレシピエントの腸内細菌組成を大きくは変化をさせなくとも,腸内環境を改善し得ることが示されており,撹乱された腸内環境の正常化の契機を,腸内細菌を標的とした治療で与えることは可能と考えられる。